SN2反応は求核種が脱離基の反対側から基質に背面攻撃をすることで進行する。このとき求核種はなぜ脱離基側から攻撃、つまり前面攻撃をしないのだろうか、というのは誰もが抱く疑問であり、当然ほとんどの教科書にその理由は書かれている。その答えは「求核種のHOMOと基質のLUMOを考えたとき、背面攻撃では結合性相互作用が生じ、前面攻撃では有効な相互作用が生じない」というものである。しかし実際に軌道を計算すると、これだけでは説明不十分でないかという反応が存在する。簡単な例としてクロロメタンとヒドロキシイオンの反応を考えよう。
背面攻撃としては上図のようになる。しかしこの場合、前面攻撃を考えても下図のようになんとなくいけそうに思えないだろうか。
こういう場合は素直なアプローチとして電荷の分布を考えよう。すると案外単純に答えは出る。
図から明らかであるが、C-X結合において分極が発生し、C原子がδ+、Cl原子がδ-を帯びている。ゆえに前面攻撃する場合は負電荷による反発が生じ、反応を生じにくいと考えられる。
(※1)別にこの項は書かずとも大概の教科書に載っている些細なものである(大概の項目がそうであるが)。しかし一部の教科書には電荷とフロンティア軌道という2点が書かれていないので、少し計算してみた次第である。
(※2)前面攻撃の方が良いのでは、というのは背面は立体障害が大きいからである。ハロゲン化アルキルを空間充填モデルで表し、反応中心炭素を黄色くしたのが下図である。これは反応中心炭素についているのがメチル基だからまだあまり込み入っていないが、これ以上の炭素数の基がついていると反応中心炭素は求核種から「見えづらく」なる。
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