成巽閣

by みこ

 兼六園の端、南のあたりにある前田なんたらさんの家。

 大きくはないが趣向の極まった作りでまるで1つの美術館のよう。色とりどりの壁や天

井、木彫りや絵も素晴らしいけど一番はつくしの庭。

 柱のない縁は圧巻で想像以上の開放感。もう一つの庭よりは背の低い木が並び全体的にこじんまりとした印象。簾を透かして見る庭は壁画にも思えた。

 遣水の水音は聞こえず自然と周りの音に耳が傾く。聴いたのはミンミンゼミ、ツクツクボウシ、スズムシ。もう夏も終わり。

 それにもう一つ、廊下が音の鳴る仕組みになっていて小鳥のような音を楽しめる。

 1人で行ったり来たりして遊んだ後、庇の下に座ってゆっくりながめていると、4羽の鳥が聞こえた。驚いて顔を向けるとそこには家族連れが。気づいた瞬間鳥肌が起った。子供の足音は高くせわしない。親の足音は低くゆったりとしている。そして歩き方にはみんな個性がある、声色のように。感動だった。

 

 声が聞こえなくなった後、やっぱり1人で来たのは間違いだと思った。それまで独り愉しんでいた分、余計寂しくなった。

 気づくと閉館時間だったので外に出て靴を履く。一緒に最後までいた老婦人をさっさと追い抜いて成巽閣を後にする。

 友人や先輩後輩のことを考えながら次はいつ来ようかと思いを巡らした。