· 

オゾンの紫外線吸収

(著)山たー

紫外線・可視光(UV/VIS)吸収スペクトルの計算(Firefly)と同様に、紫外線・可視光吸収(UV/VIS)スペクトルを用いてオゾンの紫外線吸収の話をします。

オゾン

構造と静電ポテンシャルマップ

オゾンの化学式はO3です。H2Oと同じ折れ線型ですが、中心角度はH2Oの104.45°よりも少し大きい116.8°です。また、中心の酸素原子は正の電荷を帯びています。

右の図は静電ポテンシャルマップです。静電ポテンシャルマップというのは電子密度表面に静電ポテンシャルの分布、つまり電荷の分布を貼り付けたものです。静電ポテンシャルが正だと青色、負だと赤色で表現されます。中心の酸素原子の周りが青いので、これは静電ポテンシャルが正、つまり正の電荷を帯びているということになります。

 

オゾンの紫外線吸収

紫外線の波長による分類

紫外線は波長によって次の3種類に分けられます。

UV-A (315-400 nm)

UV-B (280-315 nm)

UV-C (100-280 nm)

電磁波のエネルギーは波長をλとしてhc/λで表されます。そのため、紫外線の波長が小さいほど大きなエネルギーとなり、生体に対して有害となります。ですので、3種類の中で最も有害なのはUV-Cです。

 

このUV-Cに属する紫外線を吸収してくれているのが地球の周りを取り囲むオゾンです。実際にオゾンがUV-Cを吸収してくれるのか、紫外線・可視光吸収(UV/VIS)スペクトルを見てみましょう。

 

オゾンの紫外線-可視光吸収(UV/VIS)スペクトル

オゾンに対してTD-DFT計算を行った結果、オゾンのUV/VISスペクトルは次のようになりました。

オゾンがUV-Cの領域を吸収してくれていることが分かります。150~200nm辺りの波長域の振動子強度が低いですが、この範囲は酸素によって補われます。

 

酸素の紫外線吸収

酸素のUV/VISスペクトルを計算したかったのですが、次の理由から計算できませんでした。

 

酸素分子は例外的な分子で、スピン三重項状態を持ちます。それゆえ、SCFTYPをROHFかUHFのどちらかにして計算しなければなりません。しかし、FireflyではSCFTYPがRHFでないとTD-DFT計算ができないので、酸素分子の励起エネルギーは計算できないということです。

 

ちなみに酸素分子は、スピン三重項であるために常磁性を持ちます。有名な実験ですが、シャボン玉に磁石を近づけると吸い付くように動きます。これはシャボン玉に磁性があるわけではなく、シャボン玉内の酸素分子に常磁性があるためにシャボン玉が全体として引き付けられているというわけです。この種明かしのあとに「目に見えるものだけが原因とは限らない」などとカッコつける人もいます。確かに科学の世界ではそうなのですが。

 

人によっては当たり前なのかもしれませんが、このような性質を持つオゾンや酸素が地球を保護するように包んでくれているということは、「世界って実に良くできているもんだな」と思います。