(著)山たー
前回までは画像の再構成について説明しました。案外、鮮明に再構成できていましたが、あのようにきれいな画像が再構成できるのは理想的な測定データを考えているからです。画像再構成を行うためには精度の高い測定データが必要となるのですが、実際には様々な誤差要因が存在します。第5,6回では、誤差要因とその補正について説明します。
偶発同時計数と散乱同時計数
同時計数データには、 1つの対消滅によって生じた2つの消滅光子の両方が測定対象との相互作用を受けることなく計測された同時計数(真の同時計数)以外のデータが含まれています。それを偶発同時計数(random coincidence)と散乱同時計数(scatter coincidence)といいます。
偶発同時計数とは、異なる2つの対消滅によって生じた2つの消滅光子が同じタイムウィンドウ内に検出されることで生じる同時計数のことです。また、散乱同時計数とは、消滅光子が生体内の電子によってコンプトン散乱(Compton scattering)され本来とは異なった検出器に到達してしまうことで生じる同時計数のことです。
偶発同時計数の補正
代表的な偶発同時計数の補正として遅延同時計数法があります。遅延同時計数法では、通常の同時計数(即発同時計数)とは別に、タイムウィンドウを一定時間ずらした同時計数(遅延同時計数)を行います。遅延同時計数ではタイムウィンドウをずらしているので、記録されている同時計数は全て偶発同時計数です。対消滅が起こる確率はポワソン分布に従い、即発同時計数の中にある偶発同時計数のイベントと、遅延同時計数によって記録されたイベントの期待度数は同じであると考えられます。そのため、即発同時計数から遅延同時計数を引けば、補正をすることができます。しかし、遅延同時計数内の統計雑音によって補正後のデータの統計雑音が増加するという欠点もあります。
散乱同時計数の補正
散乱同時計数の方が偶発同時計数よりも補正は難しいです。ゆえに、ここでは散乱同時計数の簡易な補正について説明します。まず、散乱同時計数の原因となるコンプトン散乱をした光子はエネルギーが減少します。そのため、エネルギーウィンドウ(energy window)を絞る、つまり計測するエネルギーの閾値を高くすれば、ある程度は散乱同時計数を除けます。しかし、生体内での吸収によってもエネルギーは減少するので、この方法では完全に除去することは難しいです。
参考文献
・日本医用画像工学会(2012)『医用画像工学ハンドブック』, 日本医用画像工学会
・福田信男・福田 寛(1990)『ポジトロン核医学と生体核磁気共鳴スペクトル法(上巻PET編)』, アイピーシー
・水田哲郎(2011)「第2回:PETのデータ補正」,『Medical Imaging Technology』,29(1), pp.47-50
・北村圭司(2001)「PETにおけるデータ補正と画像再構成」,『Medical Imaging Technology』,19(6), pp.462-467
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