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PET検査の仕組み(第2回)「画像再構成①:Radon変換」

(著)山たー

逆問題と画像再構成

 PETを含む医用断層イメージング(他にX線CT, MRI, SPECTなど)では、放射線や磁気と生体が相互作用することにより得られる計測データに手を加えることで断層画像を得ています。この問題を一般化して考えましょう。2次元画像(断層画像)を$f(x,y)$, 計測データを$g(r,s)$とします。2次元画像データが$f(x,y)$で表されるというのは少し疑問に思うかもしれませんが、画像というのは画素の集まりであることを思い出して下さい。$x,y$を画素の座標とすれば、$f(x,y)$はその場所での画素値のことです。
 $f(x,y)$と$g(r,s)$の関係は一般に次のようになります。 $$ g(r,s)=\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dx\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dy\ h(x,y|r,s)f(x,y)+m(r,s)+n(r,s) $$ ここで、$h(x,y|r,s)$は積分変換における積分核です。CT, PET, SPECTではRadon変換、MRIではFourier変換を用います。$m(r,s)$はモデル化困難で, なおかつ不必要な要因のことです。PETにおける$m(r,s)$は第5回で説明します。$n(r,s)$は雑音(noise)成分であり, 機器の計測雑音やランダム性による統計雑音が含まれます。$m(r,s)$を推定し、除去すること、および$n(r,s)$をできるだけ抑制することが必要になります。

 $f(x,y)$から$g(r,s)$を求める問題を順問題(forward problem)と呼び、$g(r,s)$から$f(x,y)$を求める問題を逆問題(inverse problem)と言います。一般に逆問題の方が困難です。計測データ$g(r,s)$から断層画像$f(x,y)$を計算で求めることを画像再構成(image reconstruction)と呼びます。なお画像再構成は逆問題の中に含まれます。

Radon変換

 X線CT, PET, SPECTではRadon変換という積分変換を用います(厳密にはRadon変換自体は使っていないのですが、その理論は用いています)。そこでRadon変換とは何なのか説明することにします。

 まず下図のように$xy$平面をとります。また、$xy$平面を$\theta$回転させた$rs$平面を考えます。

Illustration

 このとき、 $$ \left[\begin{array}{c}r\\s\end{array}\right]= \left[ \begin{array}{cc} \cos\theta&\sin\theta\\ -\sin\theta&\cos\theta \end{array} \right]\left[ \begin{array}{cc} x\\y \end{array} \right] $$ が成り立ちます。

 ここで直線$C_\theta : r=x\cos\theta+y\sin\theta$上の$f(x,y)$の線積分を$p(r,\theta)$とすると、 $$ p(r,\theta):=\int_{C_\theta} f(x,y)=\int_{-\infty}^{\infty}f(r\cos\theta-s\sin\theta,r\sin\theta+s\cos\theta) ds $$ と表されます。この$p(r,\theta)$を投影データと呼びます。また、$f(x,y)$を$p(r,\theta)$に対応付ける積分変換をRadon変換と呼びます。Radon変換の別の表現として次式があります。 $$ p(r,\theta)=\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dx\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dy\ f(x,y)\delta(r-x\cos\theta-y\sin\theta) $$ ただし、$\delta(\cdot)$はDiracのデルタ関数であり、 $$ \delta(x,y)= \begin{cases} +\infty & ((x,y)=(0,0)) \\ 0 & (\textrm{otherwise}) \end{cases} $$ および, $$ \int_{-\infty}^{\infty}\!\!dx\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dy\ \delta(x,y)=1 $$ で定義されます。このデルタ関数は以下のような性質を持ちます。 $$ \int_{-\infty}^{\infty}f(x)\delta(x-a)dx=f(a) $$

投影データについての補足

 PET, SPECTの場合、検出された光子数が十分大きいとき、直線$r=x\cos\theta+y\sin\theta$上を運動した光子数が投影データ$p(r,\theta)$に一致、あるいは比例します。X線CTの場合、直線$r=x\cos\theta+y\sin\theta$上に照射したX線強度を$I(r,\theta)$, 検出されたX線強度を$D(r, \theta)$として、 $$ p(r,\theta):=\ln\frac{I(r,\theta)}{D(r,\theta)} $$ となります。

参考文献

・日本医用画像工学会(2012)『医用画像工学ハンドブック』, 日本医用画像工学会