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PET検査の仕組み(第1回)「PETの基礎理論」

(著)山たー

 ちょっと分かりにくいPET検査装置の仕組みを自分なりに解説してみることにしました。少し数学的になってしまいましたが、こうしないと仕組みがよくわからないと思いますので、その辺りはご容赦ください。

PETとは何か

 PETというのはペットボトルのPET(polyethylene terephthalate)のことではありません。少々長いですが、一文で説明すると、PET(positron emission tomography)とは、陽電子を放出する放射性同位体(陽電子放出核種)で標識した化合物を生体内に投与し、放出された陽電子が生体内の電子と対消滅する際に同時に発生する2本の消滅放射線を検出し、放射線を検出した2つの検出器を結ぶ直線状に放出核種が存在するとして放射性製剤の分布を断層画像として再構成する装置のことです。PETのことをポジトロンCTと呼ぶこともあります。疾患において特異的な化合物を陽電子放出核種で標識することで、悪性腫瘍や脳疾患などの診断に利用できるということです。

 今回の連載では上に一文で書いた説明をかみ砕いて説明することにします。最終的にPET装置の仕組みを模したプログラムを作成することを目標とします。

 

陽電子と電子の対消滅

 まず、上の説明で出てきた「陽電子」について説明します。陽電子(ポジトロン, positron)とは電子の反物質です。「反物質」というのはあまり聞かない言葉ですが、ある粒子に対して電荷だけ逆で他の性質は同じという粒子のことです。陽電子は電荷の符号が電子と逆であり(電子と絶対値の等しい正電荷を持ち), 電子と同じ質量, スピンを持ちます。また、電子をe-という記号で表すのに対し、陽電子はe+と表します。

陽電子放出核種(positron emitter)はとても不安定で、原子核内の1つの陽子(p)がβ崩壊して中性子(n)に変わり、陽電子(e+)と電子ニュートリノ(νe)を放出します。この反応は次のように表されます。

$$ p\to n+e^++\nu_e $$

 放出された陽電子は生体内の電子と衝突すると対消滅し、180°±0.25°の角度で511keVのエネルギーを持つ2つの消滅光子(呼び方は色々で消滅放射線、消滅γ線とも呼びます。同じ意味の言葉ではないのですが、見方によって呼び方が変わるというわけです)が同時に放出されます(下図)。

Illustration

2つの消滅光子の間の角度における±0.25°の誤差は、陽電子が電子と衝突するときに陽電子と電子が持っている運動量によります。また陽電子が電子と対消滅するまでに進む距離を陽電子飛程(positron range)といい、これは一般に数mm以下となります。つまり陽電子放出核種の位置で光子が放出されるわけではないのです。これらの原因からPETはX線CTなどと比較して空間分解能が低くなっています。

 

同時計数法

 消滅光子を2つの検出器で同時に検出すると、その2つの検出器を結んだ直線(同時計数線(line of response : LOR))上、あるいはLORの近くにおいて放射線源が存在することが分かります。このような検出方式を同時計数法(coincidence counting)と呼びます(下図)。

Illustration

同時計数法では、一定時間のタイムウィンドウ(time window)内に2つの光子を検出した場合、その2つの光子が同時に検出されたと判断しています。ちなみにタイムウィンドウとは時間を一定時間で区切った(離散化)したときの1つの区間のことです。 

 PET装置の中には、消滅光子対が2個の検出器に到達するまでの飛行時間差(time of flight: TOF)を利用する装置もあります. 体内から2つの光子が放出される場合、2つの光子の移動距離の差はおおよそ30cm=0.3m以下であり, 光子の速さは約3.0×108m/secであることから, $$ \frac{0.3\textrm{m}}{3.0\times10^8\textrm{m/sec}}=10^{-9}\textrm{sec}=1\textrm{nsec} $$ となり、最大で1ナノ秒程度の差しか生まれません。ゆえに、TOF-PETでは光子の検出時間は10-9秒のオーダーで求める必要があります。TOF-PETについては触れないのですが、通常のPET装置でも高い時間分解能を必要とします。

PET計測の流れ

 PET測定の流れについて説明します。まず測定対象に核種で標識した薬剤を投与し、生体内で対消滅を起こします。対消滅によって生じた消滅光子対を検出器で検出します。次に同時計数判定された2つの検出器を検出器対のデータとして収集し、検出器対ごとの検出光子数についてのヒストグラムを作成します。ここで$xy$座標を下図のようにとり、同時計数線と$y$軸がなす角度を$\theta$とします(これは装置設計段階で計算してデータとして保存しておきます)。また, 原点を通り$y$軸と角度$\theta$をなす直線($x\cos\theta+y\sin\theta=0$)と同時計数線との符号付き距離を$r'$とします(符号付き距離というのは、点と直線の距離公式において絶対値を外したものです)。光子対1つを観測するごとに投影データ$p(r', \theta)$に1を加え、最終的に各$r'$における$p(r', \theta)$をまとめて$p(r, \theta)$を求めます。さらに$0^\circ\leq\theta\leq180^\circ$について$p(r,\theta)$をまとめ、サイノグラム(sinogram)を作成します(下図)。

Illustration

 このサイノグラムを、(第2回で述べる)画像再構成することにより、放射性製剤の分布を得ることができます。このとき、放射性製剤を特異的に集積する部位が存在すれば、放射線源が集中するということであり、その部位の場所を特定できます。逆に腫瘍など観察したい部位に特異的に集積する放射性製剤を生成し投与すれば、その観察したい部位の場所や様子を知ることができるというわけです。

 

参考文献

・日本医用画像工学会(2012)『医用画像工学ハンドブック』, 日本医用画像工学会

・北村圭司(2010)「PET 第1回:PETの原理と画像再構成」,『Medical Imaging Technology』,28(5), pp.381-384